企業の資金調達に関する理論研究2と東アジア企業を対象にした実証研究

 更新が随分滞っておりました。昨日は魁皇千代の富士の持つ通算勝利数1045勝を抜く新記録1046勝目を挙げましたね。たまたま中継を見ていたのですが、上手を取った時の魁皇はほんとに強い。膝のけがに悩まされ続け、幾度となく引退の危機が叫ばれましたが、無事新記録を達成でき本当によかったです。僕は九州出身で福岡の中学・高校に通っていたのですが、筑豊から来た友達に魁皇の偉大さを常日頃から聞かされていたので、その影響でファンになりました。魁皇には可能な限り記録を伸ばしていってもらいたいです。


 さて、卒論制作に際して最大の懸念だったのが、東アジア企業の起債情報などミクロデータをどうやって収集しようか、ということでしたが、様々な方のご協力を得て先日一部めどが立ちました。夏休み前に卒論制作初期における一番の懸念が払しょくされたのは非常に幸運でした。集中した時間の取れる夏休みを使い、データの整理や分析に取り組んでいきたいと思います。


 今回は前回のエントリに引き続き、企業の資金調達理論に関する先行研究を紹介したいと思います。前回紹介したDiamond(1991)の他、Bolton and Freixas(2000)で紹介されている理論がよく実証研究にも応用されているのでここでは簡単にそのモデルを紹介します。また東アジア企業のデータを用いた実証研究についても紹介します。

理論面での先行研究レビュー

 Bolton and Freixasのモデルでは、資金不足主体としての企業と資金余剰主体としての金融機関という2つの経済主体を考えています。企業は第0期において投資プロジェクトを実行するために内部資金だけでは足りず、1.銀行借入2.債券発行3.株式発行という3種類の資金調達手段の中から最適な組み合わせを選択します。プロジェクトがキャッシュフローを生み出すのは第1期と2期であり、それぞれ高収益、低収益の可能性があるとされます。


 企業の資金調達オプションがもつ特徴はそれぞれ以下の様になります。

 ここでの最大の特徴は、債務不履行に陥った企業は必ず清算されるということです。企業は第1期と第2期に債権者へ資金を返済する義務を負いますが、第1期に返済できなかった場合は企業は清算され、第2期でキャッシュフローを得る機会を失います。もし第2期に高収益が期待できた場合にはこれは非効率的な選択です。

  • 株式発行

 ここでは企業は新規株式発行により資金調達を行います。この場合の特徴は、倒産コストが発生しない反面、資金調達の際に企業と投資家との間に存在する情報の非対称性によって、希薄化コストが生じることです。(この場合の希薄化コストとは、投資家が真の情報を知っていればより多くのペイオフを企業が提供しなければならないことに起因します。)この希薄化コストは債券発行の場合よりも高く、また良い企業であるほど高いコストになるという特徴があります。

  • 銀行借入

 銀行はモニタリング機能によって優れた情報収集能力と企業再編能力を持ちます。そのため第1期で債務不履行となった場合も、第2期で高収益が期待できる良い企業の場合はその企業の清算を選択しません。この点債券発行と比較し柔軟な対応が可能というわけです。このため倒産コストも、希薄化コストの面でも、債券発行の場合と比較して優位ですが、モニタリングにはコストがかかり、それを企業が負担しなければならない点はデメリットとなります。


 Bolton and Freixasでは株式と債券発行による資金調達の選択について論じています。ここでの結論は第1期で高い収益が期待できる企業は必要資金全てを債券発行によって調達することが可能であるが、リスクの大きいキャッシュフローをもつ企業ほど資金調達手段は株式発行に制約される、というものです。また銀行借入による資金調達では、銀行がその債権を証券化する場合についてもモデルが展開されています。


 細かな数式の展開過程は捨象しますが、Bolton and Freixasのモデルでは低リスクの企業は希薄化コストがかからない社債発行や銀行借入(モニタリングコストはかかる)を選好するが、ベンチャー企業などリスクの高い企業は株式発行に資金調達手段が制約される、と結論付けられています。モニタリングコストがかかる銀行借入は債券発行より返済条件の柔軟性が高いというメリットがあります。その結果として銀行借入を選好する企業は返済条件の柔軟性に高い需要を持つ企業に限れらる、とされています。

東アジア企業を対象にした実証研究レビュー

 上にあげたBolton and Freixasの理論モデルを使用した実証研究では永野(2005)が有名です。永野(2005)によると、東アジアでは倒産法制への信頼性の低さ、企業清算時の裁判所の公平性の欠如、きわめて多大な清算コストから、債権者が第1期で企業の清算を選択するケースがきわめて少ないといいます。そのため、低収益企業は市場で債券発行を行うことができません。永野(2005)での仮説は、1.企業と投資家の間に情報非対称性が小さく、高収益が期待できると投資家が判断可能な企業のみが、債券市場で債券発行が可能となる、というものです。また同様に、2.倒産リスクの低い企業ほど債券発行するインセンティブがあるとされます。


 永野(2005)では東アジア5か国(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国)の上場企業データ(1991年〜2003年)を使用し、推計を行っています。詳しい説明は省きますが、仮説1に関しては5か国すべてで有意な統計値が計測され、仮説2に対しても一部の国で有意な値が計測されました。

今後の予定

 ゼミの先生のアドバイスを受け、今後は永野(2005)で採用されていた推計式をもとに、最新のデータを使用した検証をしていこうと思います。それには起債情報だけではなく各企業の財務データも必要なので、非常にタフな作業になりそうです。夏休みはおそらくそれだけで終わるかなと。研究に自分なりの色を付けるのはそのあとにしようと思います。回帰分析の手法などもまた勉強しなおす必要があるだろうし。。。


 ではでは今日はこの辺で。。。


参考文献
FreixasBolton and XavierPatrick. (2000). Equity, Bonds, and Bank Debt: Capital Structure and Financial Market Equilibrium under Asymmetric Information. The Journal of Political Economy, Vol. 108, No. 2, pp. 324-351.
永野護. (2005). 新アジア金融アーキテクチャ 投資・ファイナンス・債券市場. 日本評論社.