アジア新興市場と100年に一度の経済危機

 現時点で僕の頭にある卒論テーマのイメージは、アジア新興市場と2008年からはじまった金融危機・世界同時不況を絡めてなにか書けないかな、と。

 アメリカのサブプライム・ローン問題に端を発した金融危機は、最終的に世界的な不況にまで発展してしまったわけですが、大打撃を受けた震源アメリカや、ソブリンリスクにも見舞われアメリカ以上に危機が深刻化したヨーロッパと比較し、アジア新興市場は相対的にダメージが少なかった。

 実際、データとしても新興アジアの2009年のGDP成長率は6.9%と前年の7.7%に比べわずかな下落にとどまっています。

【実質GDP成長率(%)】

2007 2008 2009 2010
日本 2.4 -1.2 -5.2 2.8
アメリ 1.9 0.0 -2.6 2.6
EU 3.2 0.8 -4.1 1.7
新興アジア 11.4 7.7 6.9 9.4
IMFデータベースから著者作成


 このように世界同時不況の影響からアジアの国々がいち早く抜け出すことに成功した要因の一つとして「アジア債券市場育成の成果」があるのでは?というのが自分なりのテーマ。

 アジア債券市場というのは、1997年のアジア通貨危機により深刻な経済的ダメージを受けたアジア諸国が、アジア域内で還流する投資資金の流れを達成しようと取り組んだ域内債券市場です。

 アジア通貨危機に関しては様々な人がデータの分析を行いレポートを出していますが、その最大の要因については、アジアに投資される資金の「通貨」と「満期」がミスマッチしていた、ということでコンセンサスが得られています。つまり、当時のアジアはその潜在的成長性が注目を集め、先進国からの投資資金が流れ込んでいました。これら資金のほとんどはドル建て、またはその他の先進国通貨建てで、投資先企業(つまりアジア企業)はその資金を自国通貨に変えて設備投資や人件費にあてていました。これらはもちろん長期の設備投資資金です。そこでタイ政府によるバーツ切り下げを皮切りに自国通貨の減価が起こると、ドル建て対外債務は膨張し、また外国人投資家による投資資金の流出は設備投資など長期の投資資金として運用していたアジア企業の資金繰りを圧迫しました。それによって通貨危機は経済危機へと発展していったのです。

 アジア債券市場の話に戻ります。域内債券市場育成の取り組みは着実に成果をあげてきており、まだまだ数多くの問題点は指摘されているものの、数値だけを見ると、東アジア債券市場規模(日本を除く)は1997年に4910億ドル、世界の債券市場に占める割合が1.93%だったのに対し、2007年には3兆800億ドル、世界におけるその割合は5.91%まで上昇しています。[出展:「アジアボンドの経済学」小川英治]

 つまり、アジア通貨危機の反省に立ったアジア諸国が協働して域内での資金循環を達成しようと取り組んだ結果、今回の金融危機において投資資金の流出が起きても、それに耐えうるだけのしっかりとした域内基盤ができており、世界の中でいち早く危機から脱出できたのでは、またその後の世界経済のけん引役にまでアジア諸国がなっていったのでは、という仮説です。

 この仮説ははたして正しいのか、また正しいことをどうやって証明していけばいいのかについてはまだまだ思考していかなければいけないのですが、様々な文献を読んだりいろんな人から意見を頂戴することで真相に迫っていければいいなと考えています。


 卒論提出まであと1年以上あるので、まずはインプット中心で行こうと思います。


アジア・ボンドの経済学

アジア・ボンドの経済学

はじめまして。

都内の大学の経済学部に通う4年生です。

わけあって5年目もやる予定です。

現在卒論に取り掛かろうとしている時期なのですが、まだテーマもはっきりとはきまっていない状況で、自分の思考を整理したりいろんな人から意見を頂戴できるかな、と思ってブログを始めました。


よろしくお願いします。