『アジア・東京債券市場創設フォーラム』に行ってきました

 本日(11月16日)早稲田大学で開かれた「アジア・東京債券市場創設フォーラム」に参加してきました。早稲田大学の犬飼重仁教授が中心となり、早稲田大学グローバルCOEプログラム・東京証券取引所・アジア資本市場協議会の共催で開催され、財務省金融庁、民間企業からも多くの専門家の方がご講演されました。話題が多岐にわたって展開され、まとめるのは一苦労なのですが、備忘録も兼ねて今回は書いていきたいと思います。

アジア域内プロ向け国際債市場

 犬飼教授を中心とする早稲田大学グローバルCOEアジア資本市場法制研究グループが提案するのが、『アジア域内プロ向け国際債市場(AIR-PSM:Asian Inter-Regional Professional Securities Market)』です。これは、今まで欧米のユーロ債市場に依存してきたアジアの債券発行体・アジアの投資家を域内債券市場に呼び戻し、アジア通貨建て国際債券による効果的な資金循環を作り出すことを目的とした提言です。


 債券をアジア通貨建てで発行できるため、発行体にとっては為替変動リスクをカバーでき、また投資家サイドから見れば、アジア主要国に蓄積された豊富な貯蓄資金を効果的に活用することができると期待されています。またアジア各国のプロの市場参加者を育成することで、これまで欧米中心で作り上げられてきた金融市場の枠組み策定にアジアの国々が入り込むことができる、という期待もあります。


 それではまず、このアジア債券市場育成の試みがどういった背景で始ったのかを見ていきます。

アジア債券市場育成に至る背景

1.アジア通貨危機による反省
 1997年に起こったアジア通貨危機の原因については以前のエントリでも紹介しました通り、「通貨」と「満期」のダブルミスマッチであると指摘されます。つまり、実質的にドルペッグ制をとっていたアジア諸国は、ドルを中心とした外貨を短期で借り入れ、それを自国通貨建てで国内の設備投資や不動産などの長期資金として活用していたのです。そんな中、域内のいくつかの通貨に対する信認が揺らいだことにより、急激な資金の海外流出が起こり、危機は瞬く間にアジア各国に伝播していきました。


 この反省から、2003年8月に開催されたASEAN+3財務大臣会議で『アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI:Asia Bond Market Initiative)』が策定され、通貨危機の原因となった通貨と満期のミスマッチを緩和できる、効率的で流動性の高い域内債券市場の育成に取り組むことになったわけです。


2.域内債券市場への需要ニーズ(発行体サイド)と供給ニーズ(投資家サイド)の存在
 次のグラフからもわかるように近年アジア自国通貨建て債券市場は急速に拡大しています。直近2010年のデータで4.8兆ドルもの債券市場が存在し、いまも年率18%という勢いで成長を続けています。


【Historical Growth of Asian LCY Bond Market (excluding Japan)】

Source:Asian Bond Online


 また上でも少し触れましたが、アジア主要国に眠る巨大な貯蓄資金を有効に活用できる可能性もあります。慶応義塾大学の池尾和人教授は、東アジア諸国の年金基金など機関投資家による安全資産への豊富な需要が、アメリカでの乱暴なトリプルA債発行を促し今回の金融危機の遠因となったことを指摘していますが、これもアジア域内に信用性の高い債券供給が少なかったため起きた事例と考えられます。域内債券市場の発達によりこれらのニーズを満たすことが期待されます。

現状

 先日、東京証券取引所とロンドン証券取引所が共同で設立した「TOKYO AIM取引所」がプロ向け債券市場『TOKYO PRO-BOND Market(東京プロボンドマーケット)』の制度概要を発表しました。これはアジア域内国際債市場の確立に向けたアクションプランの第1ステージと位置付けられています。これと同様の取り組みをアジア域内各国に広げていくことを第2ステージで行い、第3ステージ以降は、各国における様々な規制の緩和やアジア域内のクロスボーダー取引の拡大を目指していきます。


 上記第3ステージ以降に行われる「様々な規制の緩和」に関しては、すでに『ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF:ASEAN+3 Bond Market Forum)』が各国の規制に関する情報の収集を行っており、集められた情報は、ADBのAsian Bonds Onlineウェブサイトにて公開される予定となっています。


 このプロ向け債券市場は昨年提案が出たのをこの1年で一気に具体化したものということで、地位低下が叫ばれている東京証券取引所の変革への決意が伝わってきます。しかしパネルディスカッションでも指摘されていたように、今後の課題は、どうやって新市場を魅力的にし発行体や投資家を数多く呼び込むか、です。現状、アジア諸国は急激な資金流入によって不動産バブルやインフレが起こることを一番の懸念材料としています。世界的な金余りの状況の中、新市場を使用するインセンティブはなにがあるのか、しっかり検討していかなければなりません。